その友人は日系の会社から、外資系の会社へ転職し、MBAホルダーでもあるバリバリのビジネスマン(やや意味不明)である。三十代で既に数百人の部下がいる。
一緒に飲んだ時、その彼が「いやー継之助さん、私は毎朝駅から会社の用意した通勤バスにのるんですけど、いつも運転手さんのすぐ後ろに乗るんです。そうすると分かるのですが、殆どの人間が運転手さんに挨拶をしない。腹がたって腹が立ってしょうがないんですよ」というではないか。
彼曰く、「挨拶は人間としての基本で、そんなことが出来ない奴が仕事ができる訳がない」ということなのだ。だから彼は、毎日大声で、バスの乗り降りをする時、運転手さんに挨拶をする。
私が学生時代に運動部に入部してすぐのある日、コーチをしている先輩が、新入部員全員を集めて言ったことがある。「お前ら、なんで挨拶をしない?」
すると誰かが「まだ先輩の顔を覚えていないものですから」と言い返した。コーチは烈火の如く怒りながら言った。「馬鹿野郎!そんなこと言ってるんじゃない。体育館に来たら、皆に挨拶すればいいんだ。それが常識ってもんだろ」
思えば私たちは幸せだった。常識の無いことをすると本気で怒ってくれる先輩がいたのだから。
私は今でも朝夕、会社のあるビル(何十社も会社が入っている)のセキュリティゲートを通る時、警備員の方に声を出して挨拶をする。お取引先の方が来たら、キチンと頭を下げて挨拶をする。電話の最初には、「いつもお世話になっております」と言う。コーヒーサーバーの補給に来てくれた人がいれば、ドアを押さえて手伝いをする。
それが常識ってもんだ!